この記事を書いた人:kazuki|パワーリフティング競技者
大会出場経験:パワーリフティング3回、シングルベンチプレス1回。初出場時の記録はトータル407.5kg。自身の試行錯誤した経験をもとに、初心者の方が迷いやすい「大会準備・フォーム・ギア選び」を、競技者目線の実体験ベースで発信しています。
パワーリフティングの記録更新において、足元の安定感は欠かせない要素です。シューズ選びで多くの人が迷いやすいのは、スクワットとデッドリフトで求められる機能が大きく異なるからです。スクワットでは深いしゃがみを支える安定性が重要ですが、デッドリフトでは床との距離を縮め、足裏全体で力を地面に伝えることが重視されます。そのため、単に「有名だから」と選ぶのではなく、自分がどの種目で何を優先したいかを整理することが、最適な一足を見つける近道となります。
また、公式大会で使用するシューズにはルールが存在します。スポーツに適した形状であることはもちろん、踵(かかと)の高さは5cm以下、中敷きの厚みは1cm以下、靴底の加工禁止など、事前に把握しておくべき規定があります。練習で慣れ親しんだ靴が、大会当日のコスチュームチェックで使用不可と判断されては目も当てられません。
本記事では、後悔しないシューズ選びのために知っておきたい、種目別の特性と競技ルールを詳しく解説します。
この記事でわかること
- パワーリフティングシューズが普通のトレーニングシューズとどう違うか
- スクワット向けシューズとデッドリフト向けシューズの違い
- ヒールの高さとソールの硬さをどう見ればいいか
- 初心者が一足目を選ぶときの考え方
- 大会で困らないためのシューズルールと確認ポイント
パワーリフティングシューズはなぜ重要なのか
シューズで変わるのは「安定感」と「力の伝わり方」
パワーリフティングでは、足元が少し変わるだけでも動きの感覚が大きく変わります。理由は、シューズによって足首の角度、重心の乗り方、床の踏みやすさが変わるからです。クッションが強すぎるシューズだと沈み込みが大きくなり、踏ん張りたい場面で力が逃げやすくなります。一方で、ソールが硬く安定したシューズは、足裏で床を押す感覚を作りやすく、高重量でも姿勢を保ちやすくなります。
普通の運動靴で続けると迷いやすくなる
初心者のうちは手持ちの運動靴で始めることもできますが、シューズの特徴が曖昧だと、フォームの課題なのか、足元の問題なのかが切り分けにくくなります。特にスクワットで前に潰れやすい人、デッドリフトで床を押しにくい人は、シューズを変えるだけで感覚が整うことがあります。シューズは記録を直接増やす魔法の道具ではありませんが、正しい動きを再現しやすくする土台としてかなり重要です。
スクワット向けシューズの特徴
スクワットでは「ヒールあり」が合いやすい人が多い
スクワット向けのシューズは、硬めのソールとやや高いヒールが特徴です。ヒールがあることで足首の可動域を補いやすくなり、上体を保ったまま深くしゃがみやすくなる人がいます。特に、しゃがむとすぐに踵が浮く人、上体が前に倒れやすい人、ハイバー寄りのフォームを組む人は、ヒールありの恩恵を感じやすい傾向があります。


私は初心者の頃、スクワットのしゃがみの深さに課題があったため、リーボックの「レガシーリフター2」を導入しました。ヒールがあることで足首の硬さを補い、高重量でも重心を安定させて深くしゃがめるようになりました。フォーム習得に悩むリフターにとって、リフティングシューズへの切り替えは非常に有効な先行投資になります。
安定したソールは高重量でもフォームを崩しにくい
スクワットでは、ボトムで姿勢が崩れると、そのまま失速につながりやすくなります。そのため、柔らかいランニングシューズよりも、沈み込みにくい硬いソールのほうが相性は良好です。靴全体のホールド感があると、左右のぶれを抑えやすく、足裏で圧をかけ続けやすくなります。見た目の軽さよりも、まずは「しゃがんだときにぐらつかないか」を重視して選ぶのが基本です。
ただし全員にヒールありが正解とは限らない
スクワットでヒールありのシューズが合う人は多いですが、ローバーで股関節主導のフォームが強い人や、もともと足首の柔軟性が十分ある人は、フラット寄りのシューズのほうがしっくりくることもあります。大切なのは、ヒールの有無そのものではなく、自分のフォームで安定してしゃがめるかです。スクワットで毎回同じ軌道を作れるかを基準に考えると、選択を間違えにくくなります。
おすすめの「ヒールあり」スクワット向けシューズ
リフティングシューズはECサイトなどで購入可能ですが、競技用の本格的なモデルは高価なものが少なくありません。
数あるリフティングシューズの中でも、現在私がメインで愛用しているのは ONI STK-1 スクワット専用シューズ です。スクワットに特化した設計で圧倒的な安定感がありますが、このシューズはサイズ選びが非常に特殊である点に注意が必要です。一般的な靴とはサイズ感が大きく異なるため、公式サイトでも「普段履きの感覚で選ぶと必ず失敗する」と明記されているほどです。そのため、試着した上での購入を強くおすすめします。
また、私が以前から併用している リーボック レガシーリフター も、高いヒールと安定感を求めるリフターに根強い人気がある名作です。
こうした本格的なシューズは新品だと高価ですが、サイズ選びが難しいからこそ、メルカリに「サイズが合わなかった」という理由で、数回しか使われていない美品が出品されやすいという側面もあります。まずはメルカリで自分のサイズが出ていないかチェックし、賢くコストを抑えて導入するのも一つの手です。
デッドリフト向けシューズの特徴
デッドリフトでは「薄くてフラット」が基本になりやすい
デッドリフト向けのシューズは、薄くてフラットなソールが大きな特徴です。足裏が床に近くなることで接地感を得やすく、重心も前に流れにくくなります。ヒールの高いシューズはスクワットでは有利に働く場面がありますが、デッドリフトではスタート姿勢が変わりやすく、人によっては引きにくさにつながることがあります。
ソールは薄いだけでなく「滑りにくさ」も重要
デッドリフトでは床反力を使って引き始めるため、シューズ選びではソールの薄さだけでなく、グリップ力も大切です。滑りにくい靴底は、特にワイドスタンスや床を外に押す意識が強いフォームで安心感につながります。単に底が薄ければよいのではなく、薄くて、硬くて、接地が安定するかまで見て選ぶと失敗しにくくなります。
兼用を考えるならベアフット系やフラット系も候補
一足で複数種目をこなしたいなら、ベアフット系やフラット系のリフティングシューズも候補になります。つま先が広めで、ゼロドロップに近い設計のものは、スクワットでもデッドリフトでも足裏感覚を出しやすいからです。もちろん、スクワット専用の高ヒールほどの補助は得にくい場合がありますが、まずは一足で練習を安定させたい初心者には現実的な選択肢になりやすいです。
おすすめのデッドリフト向けシューズ
私がデッドリフトで愛用しているのは、JIRIKI JKP-#2 です。JIRIKIを手掛ける日進ゴム株式会社の超防滑ソール「HyperV(ハイパーV)」は、まさに吸い付くようなグリップ力が特徴です。つま先から踵まで完全なフルフラットであり、競技者の強い踏み込みを吸収することなく、ダイレクトに床へ伝達してくれます。
また、海外リフターの間で圧倒的なシェアを誇る NOTORIOUS LIFT(ノートリアスリフト) も非常に人気があります。ソールが極薄で素足感覚に近く、多くのリフターに支持されているモデルです。
デッドリフト専用シューズも決して安い買い物ではありません。少しでもコストを抑えたい場合は、メルカリをチェックしてみるのも一つの手です。
デッドリフト用シューズは、サイズ感や足裏の接地感の好みが分かれやすいギアです。そのため、メルカリには「一度試したけれど感覚が合わなかった」という理由で、数回しか使用されていない状態の良いものが出品されることもよくあります。まずはメルカリで自分のサイズが出ていないか確認し、賢くお得に導入してみてはいかがでしょうか。
スクワットとデッドリフトで何が違うのか
スクワットは「しゃがみやすさ」、デッドリフトは「床との近さ」
スクワットでは、深くしゃがむこと、上体を安定させること、膝と股関節をスムーズに使うことが重視されます。そのため、ヒールありで硬いソールのシューズが助けになることがあります。
一方、デッドリフトではスタート時点でバーに近づき、足裏で床を押しながら真っすぐ力を伝える感覚が重要です。その違いが、スクワット向けとデッドリフト向けでシューズの方向性が分かれる理由です。
一足で済ませたい人は「どちらを優先するか」で決める
初心者が最初から種目別にシューズを分ける必要はありません。一足目で大切なのは、自分が今どの種目で困っているかを明確にすることです。スクワットで深さや安定感に課題があるならヒールあり寄り、デッドリフトで接地感や引き始めの不安が強いならフラット寄りが候補になります。両方を無難にこなしたいなら、極端な特徴のないフラット系・ベアフット系から入る考え方もあります。
ベンチプレスではどんなシューズを選ぶべきか
ベンチプレスは「足元を安定させやすいか」で考える
ベンチプレスのシューズ選びでは、スクワットのように「しゃがみやすさ」、デッドリフトのように「床との近さ」を最優先するというより、足裏で安定して踏ん張りやすいかを基準に考えるのがわかりやすいです。パワーリフティングでは3種目で足元の役割が異なりますが、ベンチプレスでもシューズの硬さや接地感によって体勢の作りやすさは変わります。そのため、ベンチ用だけを別に考えるというより、スクワット寄りのシューズを使うのか、フラット系のシューズを使うのかという視点で整理すると選びやすくなります。
スクワット寄りのシューズが合う人
スクワット向けのシューズは、硬めのソールとヒールのある設計が特徴で、足元の安定感を作りやすいタイプです。こうしたシューズはスクワットだけでなく、ベンチプレスにも適応できるとされており、1足で複数種目をこなしたい人にも選択肢になります。特に、スクワットを重視していて同じシューズでベンチもまとめたい人や、柔らかい靴よりも硬い足場の感覚を好む人には合わせやすい考え方です。
フラット系シューズが合う人
デッドリフト向けのシューズやベアフット系のシューズは、薄くフラットなソールで接地感を得やすいのが特徴です。こうしたタイプはデッドリフト向けとして紹介されることが多い一方で、スクワットやベンチプレスなど他の種目でも使用可能と整理されています。そのため、ベンチプレスでも足裏の感覚をはっきり出したい人や、デッドリフトとの兼用を優先したい人には、フラット系のほうがしっくりくることがあります。

私は、ベンチプレスの際もデッドリフトと同じ JIRIKI JKP-#2 を着用しています。ベンチプレスでもフラットなソールで足裏全体を使って地面を捉えたい私にとっては、この組み合わせがベストです。種目ごとに異なる特性のシューズを何足も持ち歩く必要がないことは大きな利点だと感じています。
3種目を一足で兼用したい場合の考え方
3種目を一足で回したい場合は、ベンチプレス単体で選ぶのではなく、スクワットとデッドリフトのどちらをより優先するかで決めるのが現実的です。スクワットの安定感を重視するならヒールあり寄り、デッドリフトの引きやすさを重視するならフラット寄りが候補になります。ベンチプレスはその中間に位置づけて考えると整理しやすく、まずは自分が最も重視したい種目に合わせて一足目を決めるのがおすすめです。
ベンチプレス用として選ぶときも大会ルールは確認する
ベンチプレスで使う場合でも、大会で履くシューズは競技ルールに合っている必要があります。パワーリフティング競技では、スポーツに適したシューズであることに加えて、踵の高さは5cm以下、中敷きは1cm以下、靴底の加工は禁止といった条件があります。スクワット向け、デッドリフト向け、兼用モデルのどれを選ぶ場合でも、最終的には「大会でそのまま使えるか」を確認しておくと、本番前に慌てにくくなります。
初心者が一足目を選ぶときの基準
まず見るべきはヒール高、ソールの硬さ、フィット感
初心者がシューズを選ぶときは、ブランド名より先にヒール高・ソールの硬さ・足へのフィット感を見たほうが失敗しにくくなります。ヒール高はスクワットのしゃがみやすさに、ソールの硬さは安定感に、フィット感は左右のぶれや踏ん張りやすさに直結します。サイズが合っていないと、どれだけ評判のよいシューズでも力を発揮しにくくなります。
迷ったら「今いちばん伸ばしたい種目」を基準にする
スクワットを強化したいのか、デッドリフトを安定させたいのかで、選ぶべき方向は変わります。たとえば、しゃがみの安定性を改善したいならスクワット向け、引きの足元を固めたいならデッドリフト向けです。まだ自分のフォームが固まりきっていない段階なら、万能型の一足で練習しながら適性を見極めるのも悪くありません。最初から完璧な一足を探すより、練習の再現性が上がる一足を選ぶほうが現実的です。
クッション性の高いランニングシューズは避けるべき理由
ランニングシューズは、歩く・走る動作を円滑にするため、クッション性や反発性を重視した設計になっています。しかし、重い重量を支えるパワーリフティングにおいては、このクッションによる沈み込みが足元の不安定さを招き、地面を蹴る力を逃がしてしまいます。
また、ソールが柔らかいと足裏からの情報が曖昧になり、重心位置の微調整も困難になります。単に動きやすい靴を選ぶのではなく、パワーリフティングの基本である押す・踏む・耐える動作に直結する高硬度な安定感を基準にするのが、記録更新への最短ルートです。
大会で困らないために知っておきたいシューズルール
使える靴・使えない靴の基本
大会では靴の着用が必要で、スポーツシューズ、スポーツブーツ、ウェイトリフティング用またはパワーリフティング用シューズに準じたものが認められます。一方で、ビジネスシューズ、ハイヒール、五本指シューズ、トレッキング用シューズ、スパイク類などは使えません。練習で使えていても、大会基準では不可になるものがあるため注意が必要です。
踵の高さと中敷きの厚さには上限がある
競技で使用する靴は、踵の高さが5cm以下、中敷きの厚さが1cm以下と定められています。見落としやすいのが中敷きで、市販の厚いインソールに替えていると基準を外れる可能性があります。大会で使う前提なら、購入時の状態だけでなく、あとから加えたパーツも含めて確認しておくと安心です。
ソールの加工や改造はしない
靴底は平らであることが基本で、ウェイトリフティングシューズのように最初から平らでない設計は認められます。ただし、元のデザインを加工することは禁止されています。滑り止めを強くしたい、厚みを変えたいといった理由で改造すると、大会で問題になる可能性があります。収まりが悪い場合は調整ではなく、最初から目的に合うモデルへ買い替える発想のほうが安全です。
失敗しないための選び方のコツ
見た目や評判だけで選ばない
人気モデルや見た目のかっこよさは、購入のきっかけにはなりますが、それだけで決めると失敗しやすくなります。重要なのは、自分のフォーム、柔軟性、練習頻度、どの種目を優先したいかです。足首が硬いのに極端にフラットな靴を選ぶ、デッドリフト重視なのに高いヒールを選ぶと、思ったより使いこなせないことがあります。
試着では「立った感覚」より「踏んだ感覚」を見る
シューズは歩いた感覚だけでなく、しゃがむ・踏ん張る・床を押す感覚で判断することが大切です。立った状態では問題なくても、スクワット姿勢を取ると踵が浮く、つま先が詰まる、左右にぶれるといったことは珍しくありません。可能なら、実際のフォームに近い姿勢で足裏の感覚を確かめてから選ぶと、購入後のズレが減ります。
大会用なら練習で履き慣らしておく
大会当日に初めて履くのはおすすめしません。ホールド感が強いシューズやヒールのあるシューズは、慣れるまで動きの感覚が変わるからです。購入したらすぐ本番投入するのではなく、アップからメインセットまで使ってみて、違和感がないかを確認しておきましょう。大会で使うなら、ルール適合だけでなく、自分がその靴で普段通り動けるかまで見ておくのが大切です。
まとめ
パワーリフティングシューズ選びで大切なのは、単に「有名な一足」を選ぶことではありません。スクワットではしゃがみやすさと安定感、デッドリフトでは床との近さと接地感が重視されやすく、どちらを優先するかで選ぶ方向が変わります。
また、大会で使うシューズにはルールがあるため、踵の高さ、中敷きの厚さ、禁止される靴の種類、改造の有無も確認が必要です。初心者が一足目を選ぶなら、まずはヒール高、ソールの硬さ、フィット感を見て、今いちばん伸ばしたい種目に合うものを選ぶのがおすすめです。迷ったら、極端な特徴のない安定した一足から始めて、フォームが固まってから絞り込むと失敗しにくいでしょう。


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