この記事を書いた人:kazuki|パワーリフティング競技者
大会出場経験:パワーリフティング3回、シングルベンチプレス1回。初出場時の記録はトータル407.5kg。自身の試行錯誤した経験をもとに、初心者の方が迷いやすい「大会準備・フォーム・ギア選び」を、競技者目線の実体験ベースで発信しています。
パワーリフティングの大会で、初心者が特に迷いやすいのが試技重量の決め方です。練習では難なく挙がっていた重量でも、本番の緊張感や厳しい審判の判定、慣れないアップ会場といった環境の変化により、体感重量は大きく変わります。だからこそ大会では、ただ「挙げたい重量」を並べるのではなく、第一試技・第二試技・第三試技それぞれの役割を分けて考えることが大切です。
特に第一試技は検量時に申告し、変更できる回数や締切にもルールがあるため、当日に考えるのではなく事前に方針を決めておく必要があります。JPAルールでは、第一試技は検量時申告、変更は各種目1回のみ、各試技後の次重量申請は1分以内と定められています。
本記事では、初心者の方が確実に3種目を完遂し、かつ自己ベストを更新するための失敗しない重量選択の戦略を詳しく解説します。
この記事でわかること
- パワーリフティングの試技重量を決める前に知っておきたい基本ルール
- 第一試技をどれくらい安全に設定するべきか
- 第二試技・第三試技をどうつないで考えるべきか
- 初心者がやりがちな重量設定の失敗パターン
- 当日に慌てないための事前準備と考え方
試技重量とは?まず知っておきたい基本
パワーリフティングでは、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの各種目で3回ずつ試技があります。この3回の重量設定は、単に重い順に並べればよいわけではありません。第一試技で記録を残し、第二試技で流れを作り、第三試技でその日のベストに近づくという考え方で組むのが基本です。特に大会では、練習の感覚そのままで重量を決めると失敗しやすいため、試技ごとの役割を理解しておくことが重要です。
第一試技の重量は検量時に申告する
大会では、3種目すべての第一試技重量を検量時に申告します。さらに、第一試技の重量変更は各種目1回だけ認められており、締切は「競技開始3分前まで」または「前のグループの第3ラウンド残り3試技まで」です。
各種目共にスタート重量は、1回だけ申請重量の変更が認められる。但し、競技開始の3分前までに、または、前のグループの第3ラウンド残り3試技までに申し出なければならない。
グループ間に数分間のインターバルを取ると告知されている場合には、試技開始の3分前までとする。この時刻は、放送で知らせなければならない。もし、放送がなかった場合は上記以後でも変更できる。(出典:JPA「ルールブック(2026年4月14日改訂)」)
第二試技・第三試技は各試技終了後1分以内に申請する必要があり、申請しない場合は自動で重量が決まります。
各リフターは、各試技終了後1分以内に次の重量を申請しなければならない。1分以内に申請がない場合は、自動的に次の重量が決定される。成功試技の場合⇒自動的に2.5㎏アップした重量になる。失敗試技の場合自動的に失敗した重量(同重量)になる。
(出典:JPA「ルールブック(2026年4月14日改訂)」)
ルールを知らずにいると、戦略以前のところで不利になるため、まずはこの流れを理解しておきましょう。

試技が終われば、速やかに運営席へ向かい、次重量を申告します。大会の形式によって、口頭での申告か、専用の「重量申請カード」を提出する流れになります。1分以内という制限時間があるため、成功時と失敗時それぞれのパターンを事前に決めておくと、現場で迷わずに済みます。
大会では「挙がる重量」と「成功する重量」は違う
試合で大切なのは、単にバーベルを動かせる重量ではなく、白旗がもらえる重量です。スクワットなら深さ、ベンチプレスなら静止、デッドリフトなら返しまで含めて成功と判定される必要があります。練習では通っているつもりでも、本番の判定では失敗になることがあるので、試技重量は「物理的に挙がるか」ではなく「ルール通りに成功できるか」で考える必要があります。
第一試技の決め方
第一試技は、その日の土台になる一本です。ここで成功できるかどうかで、その後の流れも気持ちの余裕も大きく変わります。そのため第一試技は、調子が少し悪くても確実に成功できる重量に設定するのが基本です。大会では練習と違って、会場の雰囲気、アップ場の混雑、器具の感覚、審判の存在など、予想以上に影響を受けます。初心者ほど、第一試技は保守的なくらいでちょうどいいです。
初心者は「5回できるくらい」を目安に考える
初心者向けの実務的な目安として、第一試技は5レップできるくらいの余裕がある重量が失敗しにくいとされています。これは本番では、普段より重く感じたり、思わぬミスが出たりすることがあるためです。一本目で無理をすると、失敗したあとに立て直すのが難しくなります。まずは確実に記録を残すことを優先するほうが、結果的に三本トータルの成功率は高くなります。
第一試技は「記録を狙う重量」ではなく「試合に入る重量」
第一試技の目的は、いきなり自己ベストを狙うことではありません。試合の環境に自分を合わせ、その種目でまず白旗を取ることが目的です。一本目が成功すると、その種目の記録が残り、二本目・三本目を落ち着いて組み立てられます。逆に一本目を外すと、重量だけでなくフォームやメンタルまで立て直す必要があり、一気に難しくなります。
第二試技の決め方
第二試技は、第一試技と第三試技のあいだをつなぐ一本です。ここで大事なのは、急に勝負に出ることではなく、第三試技につながる成功を積むことです。第一試技が通ったからといって、いきなり大きく上げすぎると失敗率が高くなります。第二試技も、自信を持って挙げられる重量にすることで、三本目の選択肢が広がります。
第二試技は“本命”に近づく一本
第二試技は、その日の状態を見ながら本命に近づける段階です。ここを成功させると、「今日はどこまで狙えそうか」がかなり明確になります。第二試技まで成功していれば、第三試技で挑戦する余裕が生まれます。逆に、第二試技で無理をして失敗すると、せっかく第一試技が通っていても流れを失いやすくなります。
第二試技をMAX挑戦にしないほうが安定しやすい
初心者のうちは、第二試技を自己ベスト挑戦の場にしないほうが安定します。第二試技は「第一試技から第三試技への橋渡し」であり、「第三試技に挑むための保険」と考えると失敗しにくいです。試合では一本の成功がそのまま安心感につながるので、二本目も確実性を重視したほうが全体としてまとまりやすくなります。
第三試技の決め方
第三試技は、3本の中で最も挑戦しやすい一本です。ただし、ここでも「挙げたい重量」だけで決めるのは危険です。第三試技で大切なのは、その日の第一試技・第二試技のスピード、フォーム、判定を踏まえて、現実的に成功が狙える重量を選ぶことです。第三試技は挑戦の場ではありますが、無謀な賭けをする場ではありません。
第三試技は“夢の数字”より“その日に挙がる数字”
大会では、練習中から思い描いていた数字にこだわりすぎると失敗しやすくなります。本当に大切なのは、今日その場で白旗が取れるかどうかです。たとえば、スクワットの深さがぎりぎりなら重量を欲張るより深さを優先したほうがよく、ベンチで静止が長く感じるなら無理な上積みは避けたほうが成功率は上がります。第三試技は理想を押し込むのではなく、当日の現実に合わせて決める一本です。
デッドリフトだけは第三試技変更の自由度が高い
運営ルール上、スクワットとベンチプレスは第三試技の変更ができませんが、デッドリフトでは第三試技に限って2回まで申請重量の増減が認められています。初心者の段階では、まずスクワット・ベンチプレス・デッドリフトで基本の組み方を覚えることが優先ですが、デッドリフトでは順位や記録を見ながら柔軟に動ける余地があることも知っておくとよいでしょう。
デッドリフトでは第3試技において、2回まで申請重量を増減してもよい。但し、アナウンサーがバー・イズ・ロ-デッドを放送する前でなければ変更は認められない。
(出典:JPA「ルールブック(2026年4月14日改訂)」)

デッドリフトの第三試技は、順位争いや標準記録の突破をかけた勝負の局面になることが少なくありません。基本は冷静な重量設定が鉄則ですが、状況によっては、あえて限界ギリギリの重量に挑むという選択も生まれます。この最後の一本にすべてを懸ける駆け引きと、そこから生まれるドラマも、パワーリフティングという競技の大きな醍醐味です。
初心者がやりがちな試技重量設定の失敗
初心者がよくやってしまうのは、練習の自己ベストをそのまま大会に持ち込むことです。練習では成功していても、本番は判定が厳しくなり、緊張も加わるため、同じ重量でも難しさが変わります。また、第一試技を重くしすぎる、第二試技で急に上げすぎる、第三試技で理想の数字だけを追いすぎる、といったパターンも失敗の原因になります。
第一試技を重くしすぎる
一本目でいきなり勝負すると、その後の修正が難しくなります。特にルール上、第一試技で失敗しても第二試技は第一試技より軽くできないため、最初の設定が重すぎると立て直しづらくなります。第一試技はあくまで成功率を優先したほうが安全です。

パワーリフティングは3種目の合計重量で競うため、どれか一つの種目でも3回全て失敗すると、記録なし(失格)となってしまいます。まずはトータル記録を確実に残すためにも、第一試技は絶対に成功できる重量に設定しましょう。
ウォームアップ不足を想定していない
大会ではアップ場が混み、予定通りのウォームアップができないことがあります。そのため、想定よりアップが足りなかったときにどうするかも事前に考えておく必要があります。実務的には、混雑がひどいときは第一試技を少し下げて、最終ウォームアップを兼ねるようにする考え方も有効です。
不測の事態が起きやすい会場で、焦らずに心身を整えるには大会当日に特化したウォームアップの戦略を知っておくことが欠かせません。限られた時間と設備の中で、第一試技に向けてどのように出力を高めていけばよいのか。具体的なメニューの構成や、トラブルを回避するコツについては下記の記事を参考にしてください。
次の重量をその場で考えようとする
大会では各試技後1分以内に次の重量を申請する必要があります。一本終わってからその場で悩んでいると、時間が足りず焦りやすくなります。事前に「予定通りならこの重量」「少し重かったらこの重量」「かなり軽かったらこの重量」と複数パターンを考えておくと、当日の判断がスムーズです。
当日に慌てないための試技重量の考え方
大会当日は、完璧な数字を当てにいくより、成功を積み上げる設計のほうがうまくいきます。基本は、第一試技で確実に通す、第二試技で本命に近づく、第三試技で現実的に挑戦する、という流れです。これに加えて、当日の調子やアップ状況に応じて少し調整できるよう、候補を複数持っておくと安心です。
事前に3パターン用意しておくと判断しやすい
おすすめは、各種目ごとに次の3パターンを考えておくことです。
- 標準パターン
- 調子が悪いときの安全パターン
- 調子が良いときの強気パターン
こうしておくと、当日の感覚に応じて迷わず決めやすくなります。試技重量は気合いで決めるものではなく、成功確率を上げるために設計するものと考えると整理しやすいです。
まとめ
パワーリフティングの試技重量は、ただ重い順に並べるのではなく、第一試技で記録を残し、第二試技で流れを作り、第三試技でその日のベストを狙うという考え方で決めるのが基本です。初心者ほど、第一試技はかなり安全寄りで問題ありません。大会では「挙がる重量」ではなく「白旗がもらえる重量」を基準にし、当日の緊張や判定、ウォームアップ環境も含めて考えることが大切です。事前に複数パターンを用意しておけば、試技後1分以内の申請でも慌てにくくなります。試技重量は、強さを見せるためではなく、記録を積み上げるために決めるものです。



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